『吉澤危機一髪』

カネダ


ダダダダダダ。
四方からマシンガンを乱射する音が響き渡る。
ひとみはこの黒雲で包まれたような倉庫に一人、潜入していた。
ひどく疲弊したひとみの体は、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。
(崩れ落ちる前に・・・梨華ちゃんなんとかしないとね)
体が、呼吸する度に軋む。
慎重に左右を見渡し、銃声が止んだのを確認するとひとみは
体を低くして、地面を這うように置かれてあった木材の裏に忍び込む。

「どこだ!?」

図太い男の怒声と共に一つ銃声がなって、火花が散る。
ひとみは息を潜めながら、木材に背も垂れてズルズルとしゃがみ込んだ。

「ったく、どうしてこうも梨華ちゃんはドジなのかね?」

嘆息交じりにぼやいた時、目端にひとみはなにやら違和感を覚えた。
(・・・見つけた)
二メートル四方のコンテナが幾つか積み重ねれた頂上に、手を縄で縛られて、
口に猿轡を噛まされてる梨華の痛々しい姿を発見する。
その隣には、氷のように冷たい視線を宿いている、切れ長の目の一人の女がいた。
仮面をつけたように微動だにしないその表情に、ひとみはある種の恐怖心を隠せなかった。
(あいつが梨華ちゃん誘拐計画を企てた張本人か・・・)

ひとみは一つ大きく息を吐くと、自分の銃にサイレンサーを施し、
スッっと一歩軽快に横っ飛びした。飛びながら、目をつけていた標的に向けて引き金を引く。
ブシュブシュブシュ。
撃ち終ったと同時に、前転して眼前のコンテナの裏に忍ぶ。

「ああ、三人やられた!どこにいやがるんだ?にっくきひーちゃん!?」

切れ長の女が解説調のセリフを慌ただしく発した。
ひとみはその焦燥混じりの声を聞いて、ニヤリと口端を上げた。
湿気が充満した倉庫の中は、暑い。
辺りは一瞬、シンと静まった。用意された静寂。

「よし、ひーちゃん、ひとまず私の話しに耳を傾けてくれないか?
もう手下どもは全員やられちまって、ここにはこの子とひーちゃんと私しかいない」

静寂を破って、女の平板な声が、湿気の合い間を縫うようにひとみに届く。
ひとみは警戒しながら、口を開いた。

「なんだよ?言っとくけど、わたしは梨華ちゃんなんてどうでもいいんだよ?」

フグフグと瞳を潤ませ、口を歪ませながら梨華は首を振った。

「そんなことは先刻承知。わたしだってこの子なんて本当はどうでもいい」

梨華はフグフグともがく。

「・・・何が、言いたい?」
「お前と、一度勝負してみたかった」
「・・・どういう意味?」
「・・・こういう意味だよ!」

シャキンという音が倉庫全体に響いて、女の両手から鋭利で細長い刃物が現れた。
タン、と体を縮めて、女はひとみめがけてコンテナの頂上から飛び降りる。
ブワっとひとみに突風がかかり、ひとみは反射的に後ろへ飛んだ。

「あ、あぶねえ〜」

ひとみの頬に、氷を押し付けられたような冷たい感覚が走った。
そこから、一滴、二滴と血が滴り落ちる。

「よくかわしたねえ」
「あんた・・・名前は?」
「私は・・保田。人呼んで、肩身が・・じゃなくて、猫目の保田!」

保田はひとみに向かって突進した。両手には裕に一メートルはあるであろう
鋼鉄の爪を振り上げて。

「悪いけど、喧嘩じゃ負けたことないんだ」

ひとみは保田の冷たい視線を受けながら、待ち構えた。
全身の神経が、ひとみの闘争本能を呼び覚ます。

「キエエエエエエ!」

保田の奇声が響きわたり、その巨大な爪が振り下ろされた。ブン。
ひとみは、体を沈めてその一振りを寸前でかわすと、

「ひとみパンチ!ひとみキック!ひとみソバット!ひとみ起き上がり小ぼうしチョップ!
ひとみラリアート!ひとみ真空飛び膝蹴り!ひとみジャーマンスープレックス!」
「ぐわああああっリストラなんて認めないわよーーーー!!」
「ははは、あたしは最強!」

―――

「・・・っと・・・ちょっと!!!」
「へ?」
「もう、とっくに集合時間過ぎてるよ!
みんなもう集まってるよ?うわ・・・また漫画描いてたの?あきれた」

心底呆れ返った梨華はひとみに一顧もくれないで楽屋を後にする。

「あっ・・待ってよ!梨華ちゃん・・・これからいいところなのに・・・」

未完成のこの漫画の結末は、悪戯好きの辻加護によってそれは見るも無残な
落ちにされたとさ。


おわり。誕生日おめでとう。


おわり


■ 作者あとがき

一言。・・・ごめんなさい!
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