『DBABY BLUE』

姫子


夜の駅、人気のないホーム。
ベンチに座り、汽車を待つ、あたしと梨華ちゃん。

梨華ちゃんは、ずっと俯いたまま、顔を上げない。
分かってる、強がりな梨華ちゃんだから、涙を見せたくないんだね。

ギターケースと小さなボストンバックを手に、この町を出て行くあたし。
それを見送る、あたしの可愛い梨華ちゃん。

高校のひとつ先輩。
でも、ドジで間抜けでドン臭くて。
気がついたらいつの間にか目が離せなくなって。

高校を卒業して。
あたしは就職もしないで、ギター一本を抱えて町をうろうろする生活。
ポケットの中には小銭だけ。
6畳一間のボロアパート。
ある日突然、そこに転がり込んできた梨華ちゃん。

笑って、泣いて、ケンカして。
そして、愛し合って。

あたしの可愛い天使。
あたしの大切な女の子。

でも、やっと掴んだこのチャンス。
あたしは、梨華ちゃんを捨ててでも、行くよ。

さぁ、今夜は最後の夜。
どうかそんな悲しい顔をしないで。

どうして泣くの?
仕事もしない。
朝から晩まで音楽のことばかり。
そんなあたしのこと、嫌いって言ってたくせに。

大丈夫、梨華ちゃんは一人だって生きて行けるよ。
不器用だけど、純粋で真っ直ぐで、いつも一生懸命で。
だから、誰にだって愛される。
あたしみたいなろくでなしがそばにいない方が、きっと幸せになれる。
だから、お願い。
夜の仕事だけは、もう辞めて欲しい。

ああ、梨華ちゃんの濡れた目に、歪むあたしが映る。
ねぇ、お願い。
梨華ちゃんだけは、強く、真っ直ぐでいて欲しい。
BABY BABY。
あたしの愛しい、BABY BLUE。

わかってくれるよね。
もう、この街には2度と戻らない。
だから、あたしを待ったりしないで。
迎えには来ないから。
約束もしないから。

こんな生き方しかできないあたしは、きっと死ぬまでバカをみるよ。
でも、言わせて。
最後の強がり。

それでも、梨華ちゃんのこと、棄てて行くよ。

だからあたしは泣かないから。
あたしは絶対泣かないから。

ホームに汽車がすべり込んでくる。
さぁ、もう行かなきゃ。
あたしはベンチから立ち上がり、汽車に乗り込む。
あたしを都会へ連れて行く汽車に。

梨華ちゃんは弾かれたように立ち上がり。
ぽろぽろと大粒の涙を流して、列車の入り口に立つあたしを見上げる。
ああ、なんて綺麗な涙。
なんて綺麗な梨華ちゃん。

でも、あたしには何も言えないよ。
いま口を開いたら。
きっと梨華ちゃんを惑わせるようなことしか言えない気がする。
あたしはもう戻らない。
何も言わない方がいい。
これ以上、何も、梨華ちゃんに残せない。

そして、発車のベルが鳴る。

もう一度だけ、その細い体を抱きしめたい。
そんな想いがあたしの中を駆け巡る。

梨華ちゃんは、何か言いたげに、涙をぼろぼろこぼしながらあたしの顔を見つめいる。
そして、梨華ちゃんが口を開いたとき。

あたしと梨華ちゃんの間。
汽車のドアが閉まった。

さよなら、梨華ちゃん。

声にならないあたしのつぶやき。
汽車がゆっくりと走り出す。

ああ、梨華ちゃんの濡れた目に、歪むあたしが映る。
ねぇ、お願い。
梨華ちゃんだけは、強く、真っ直ぐでいて欲しい。
BABY BABY。
あたしの愛しい、BABY BLUE。

……死ぬまで、あたしは、バカを、見るさ。
梨華ちゃんの、こと、棄てても、…行くよ……。


おわり


■ 作者あとがき

終了ー。

モチーフとなった元ネタがあまりにもベタなラブソングだったため。
つい、絶対書かないと公言していたベタないしよしを書いてしまいました。
ちなみにこの続編が何本目かに出てきます。
お楽しみに。

で、書いてみて一言。
姫的には娘。小説とは呼べないけど。アンリアルだし。
でも、信じられんくらい書きやすかった。
このあたりにいしよしの秘密があるとみた。
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