EBRAKIN' MY HEART(by「CORNER」)


「何ね?もう帰ると?」
「もう腹いっぱいになったけんね」
ツアー中のとある地方。
メンバー、スタッフ、イベンターと10数人が居酒屋にてライブ後の打ち上げ。
ロックバンドのメンバーだからといって大酒飲みとは限らない。
全く下戸の苣木は、お腹いっぱいになるといつもさっさとホテルに戻る。
「もうちょっとおったら、おもしろかもん見れるったい」
苣木とは反対に大酒飲みの北里がにやにやと笑って言う。
「おもしろかもんて何ね?」
北里は答えずにニヤニヤ笑って、もうかなり「いいカンジ」になっている彼らの偉大なボーカリストを視線で指した。
ぐだぐだになりつつも上機嫌でいつもの五割り増しで饒舌な彼は、もう四半世紀近く見続けてきた、いつもとかわらぬ酔っ払い。
「森やんがどうかしたと?」

「おーつかれさんでーす」
陽気な声で、こころもち顔を赤くした吉澤がビール瓶を持って現われた。
元アイドルの不良少女。彼らの後をついてまわり、森山に拾われて、いつの間にか運転手兼何でも屋としてちゃっかりスタッフの中にもぐりこんだ犬っころ。この中では最年少のつかいっぱしり。そして―――。
「チサさんも飲んでくださいよー」
北里と苣木のふたりにビールを勧める。
「俺はいいっちゃよ」
「オマエ、自分飲まんと人に勧める気やと?」
北里が反対に吉澤の持っているグラスにビールを満たす。吉澤は「ちぃーっす」とグラスを上げてから一気に飲み干した。
若干18歳にして最近めきめきと酒飲みとしての頭角を現し始めた吉澤。「年下の人間が年上の人間に勧められた酒を断るのは人として一番やってはいけないこと」という博多んもんの彼らの教育が行き届いているのか、単に元からお調子者だったのか。とにかく酒の席ではバカのように食らいついてくる吉澤は、バカな子ほど可愛いというか、とにかくみんなに愛されていた。

「ヨシザワー、こっち酒たらねーぞー」
「ヨシザワー、焼き鳥と枝豆追加ー」
あちらこちらからかけられる声に、ビール瓶とマイグラスを持ってふらふらと行き来する。

そんなこんなで宴もたけなわ。
貸切にした座敷では、あちらこちらとグループになって酒の席の大騒ぎに興じている。
悪魔の水に頭のたがが一本二本と外れ始めたダメな大人たちに、下戸の苣木は呆れてため息をついた。彼に「面白いことがある」と言った北里も、もうすでに違う惑星に行きかけている。
そんな時、違う惑星どころか多分違う銀河系にまで旅立ってしまったかのような、目の据わった森山が彼らの席にやってきた。
「おー、まだおったとー。めずらしかー」
あーあ、だめだこりゃ。さっきまでのステージでの攻撃的なシンガーはどこに行ってしまったのか。目の前の彼はどろどろに溶けかかりニコニコと至福の笑みを浮かべている。とても人様にはお見せできない。
そして陽気な酔っ払いは彼らに向かって機関銃のように話し始めた。
森山と北里と言う最強の酔っ払い二人組みに挟まれた苣木は適当な相槌を打ちながらウーロン茶をすすっていた。やばい帰りぞこなったかな、と思いながら。

すると。
突然森山が黙り込んだ。
何かをじっと見つめている。
目つきが変わる。
鋭くなる。

苣木は森山の視線の先を追った。
その先には、みんなの犬っころ吉澤がスタッフの数人と話しこんでいた。
相当酔っ払っているらしい吉澤は、半分テーブルの上に突っ伏すようにして話を聞いていた。吉澤が何かを言ってまわりの男たちが爆笑する。隣の男が突っ伏したままの吉澤の頭を撫でた。

隣の森山がすっと立ち上がった。
苣木は驚いて森山を見た。
彼はすたすたと吉澤たちのほうに歩いていった。

そして、テーブルに突っ伏した吉澤の首根っこを掴んで体を起こさせた。
吉澤はとろんとした目で、森山を見上げた。
森山は憮然とした口調で、一言。

「これ、俺のっちゃけん」

ええええええええええっ?
苣木は口にしていたウーロン茶を吹き出しそうになった。
自分の耳を疑った。
隣では、それを見ていた北里がげらげらと大笑いをしている。
「な、何ねっ?今のっ」
「知らんっちゃ。最近、酔っ払いようと言いようね。おもしろかろ?」
笑いすぎて苦しそうに北里が言った。
「吉澤とできとんと?」
「さぁ。とにかくヤキモチ焼きようみたいやねぇ。かわいかねぇ」
どちらかというと元々がわがままな彼。酔っ払うとますます駄々っ子みたいなしょうもないわがままを言ってまわりを困らせることもある。それは知ってる。いい加減、もういい大人なんだから。そう思うこともあった。
でも、基本は男気一本の博多んモンの彼が。
こんなにストレートに。
苣木は他人事ながら気恥ずかしさに真っ赤になってしまった。

森山に首根っこを掴まれた吉澤は、いつもの気の抜けた薄ら笑いで。
へらへらと森山の顔を見上げていた。

Oh Baby
Breakin' My Heart Breakin' My Heart
音を立てて壊れていく
Breakin' My Heart Breakin' My Heart
オマエの熱にBreakin' Breakin' My Heart


おわり


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