GHOME SWEET BABY(by「EASY COME EASY GO」)


頬に当たるアスファルトが、冷たくて気持ちいいよ。
えへへ、街を行く人達、あたしのこと汚いものでも見るみたいな目で見てる。
酔っ払って、殴られて、ゴミと一緒に路地に横たわるあたし。
そうだよね。
絵に描いたようにダメ人間だよ。

ごろん。
寝返りをうって、空を見上げる。
星ひとつない真っ黒の闇の中、ぼんやり浮かび上がる白い月。
ねぇ、涙が出そうだよ。

自然に、自然に胸の中にわきあがってくる名前。
小さく小さくつぶやいて。
みっともないあたし。

―――会いたい、よ。梨華ちゃん。

バカみたい。
罰が当たったんだんね。

夢に魅せられて、梨華ちゃんを棄てて。
あんなに泣いてたのに。
あたしはあの街を出た。

そして、残ったものは、騙され小突き回されてボロボロになったこの体だけ。
あんなに輝いてた夢も、もうどこかに消えてしまったよ。
よくある話、笑い話だよ。
そんな話に、あたしも引っかかってしまっただけ。
一番大切なものを棄てていったのに。
落ちぶれ果てたあたし、誰にも見向きもされない。
何も手に入れられなかったろくでなし。

ろくでなしは、どこに行ってもろくでなしでしかなかったよ。

場末のキャバレー。
酔っ払い相手に消費するあたしの音楽。
何もかもが嫌になって、お客とケンカして。
店の用心棒にたこ殴り。
ゴミみたいに放り出されたあたし。

もう、何も残ってないよ。

見上げる白い月が、愛しい彼女の微笑む顔になる。
笑っているのに、どこか泣きそうにも見える、ハの字眉の、彼女の情けない笑顔。
でも大好きだった。
勝手気ままに、優しくしたり冷たくしたり。
そんなわがままなあたしのいつもそばにいてくれた。

ねぇ。

あたしはゴミの山からよろよろと立ち上がる。
あたしと一緒に放り出された相棒のギターを拾って、ポケットの中の小銭を数える。

ねぇ。
梨華ちゃん。

あちこち痛む体、足を引きずって歩き出す。
駅に向かって。
汽車に乗るんだ。

ねぇ。
梨華ちゃん。
帰ってもいいかな。

ふらふら歩く。
駅を目指す。
駅に行って、梨華ちゃんの元へ帰る汽車に乗るんだ。
誰に肩がぶつかって、罵声を浴びせられる。
何だろ?真っ直ぐ歩けない。

何だか、頭がぼんやりするよ。
体がやけに重くて、目が霞む。
なんだか、胸がむかむかする。

よたよたと歩くあたし。
急に吐き気がこみ上げてきて。
あたしは体を二つ折りにして、道端に吐いた。
「きゃあっ」道行く人が声を上げて、あたしを避けて行く。

あたしはそのままずるずるとその場に座り込んだ。
そういや、用心棒に放り出されたとき、しこたま頭をぶつけたんだっけ。
指先で後頭部に触ってみると、ぬるりとした嫌な感触がして。
その手を外灯の明かりにかざしてみると、どす黒い血に濡れていた。

大丈夫、梨華ちゃん。
そんなに心配しなくても。
こんなの、何でもないから。

何故だか、すぐそばに、今にも泣きそうな顔をした梨華ちゃんが心配そうにあたしのこと、見てるような気がして、そうつぶやいた。
大丈夫。
こんなの何でもないから。

だから、すぐに帰るよ。
帰って梨華ちゃんの細い体を抱きしめたいんだ。
その、泣き笑いの顔で「おかえり」って言って欲しいんだ。

でも、変だな。
何だか、とても眠くなってきちゃったよ。
もう、目が、明けて、らんな…い……。

ねぇ、梨華ちゃん。
もうすぐたどり着くよ。
もう離さない。
月が消えないうちに、梨華ちゃんのこと抱きしめるから。

もうすぐ。

もうすぐ、帰るから―――。


おわり


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